前回に続いて。
21年ぶりに再会した女性。当時は専業主婦でしたが、その後、思いもしないかたちで彼女の人生が劇的に動き出します。華々しい受賞歴を数々持つ、高名なフラワーデザイナーへと転身。世界的に高い評価を得て内外から認めらる見事なキャリアを携えていました。
きっかけは「21年前にくわの先生からいただいた言葉でした」と嬉しそうに言う彼女。しかし、私は決して特別な言葉を発したわけではありません。「あなたはこんなに素晴しいよ」と、彼女の中に輝く一面をちょっとつついてあげただけ。本人がまだ気づかずにいただけのことでした。
それが、彼女の心深くに眠っていたマグマにかすかな刺激を与えたのかもしれません。それ以来、まるで謎解きのように、何だろう何だろうと私の言葉の意味を模索し、反芻をする毎日。掃除機をかけながら、お皿を洗いながら、2年くらい自分に向かって問答を続けたと言います。そうしてたどり着いたのが「花」。情熱を注ぐべき対象を見つけだしました。
花に魅せられてから現在に至るまでを私に語る彼女。その全身からは、躊躇のない、花へのほとばしるような懸命さが伝わってきます。そして、現在の彼女を導いたのは他の誰でもない、彼女自身であること、一途な姿勢そのものなのだと実感させられるのです。
対照的に、傍らのお嬢さんはとても静かに座っていました。せっかくの機会だから、自分の名づけ親という人に一度会ってみたいと伴ってこられたそうです。お母さまの言葉を借りれば「今どきめずらしいと言われるほど、ご近所でも評判の、すごく素直でまっすぐな子」。
このあと、就職のための面接を予定しているといいます。ちょうど社会へと羽ばたく年齢を迎えたところ。どの道へ歩き出そうか、その選択をしなければならない岐路にさしかかっていました。
この時代であればこその厳しさを肌で味わう時が、やがて否応なしに訪れます。これからどんな風に道をきり拓き、闘っていくのか、それは誰にも決められません。彼女が、今日をどう過ごし、そして明日をどう迎えるか、その積み重ねが、さらに先へと進む道につながっていくでしょう。
「今度、自分のこれからについて相談してもいいですか?」と聞く彼女。「次は一人でいらっしゃい」と答えながら、私は心の中でエールを送りました。
・・・さらに次回続きます。
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