前回のイチローくんを引きずって。
2年前に気の合う仲間4人でカナダを旅してきた時のことです。私の旅は、スケジュールの隙間に休暇を何とかはめ込んで、という事情が多いため、この時も出発2週間くらい前になって、海外生活を経験して旅なれている仲間の一人が、ホテルと航空チケットの確保に奔走してくれてバタバタと出発したのでした。
カナダへの直行便は往復共、あいにく満席だったため、カナダ国境に近いアメリカのシアトル空港で一旦乗り換え、小さな飛行機でバンクーバーへ、という具合でした。
さて、このシアトル、2年前の私にとっては何の思い入れも、知識も持ち合わせていないただの通過地点の街に過ぎませんでした。往路では、街全体が厚い雨雲にすっぽりと覆われて視界が悪く、1時間半もグルグルと上空を旋回してようやく着陸出来、珍しくお天気にイタズラされたかと、バンクーバー行きの直行便に乗れなかったことを恨めしく思ったものです。
空港内にあったスターバックスのコーヒーの味は、苦いうえにサイズが巨大(私の注文の仕方がまずかったのかも知れません)で、私の胃袋には合わないか、と思いながら我慢してようやく飲み干しました。
その旅から帰ってきてほどなく、テレビで「めぐり逢えたら」というアメリカの恋愛映画が放送されていました。以前にも見ていて、エンパイアステートビルのクリスマスのシーンは記憶にあると思いつつ何となく見はじめると、主演のトム・ハンクスの住んでいる街がシアトルだったということに、初めて気づいたのです。
映画の中のシアトルは、いつも雨がザーザー降っていて、相手役のメグ・ライアンが「あんな雨ばっかり降っているところなんていやよ」(多分そんな感じのセリフだったと思う)と語っていることから、年間を通じて雨雲がかかりやすいところなのだと納得したのでした。
そして翌年、つまり昨年のこと、イチローがシアトルマリナーズに入団してその試合の模様やシアトルの街並を目にしたり耳にする機会が増え、俄然、親しみを持って眺める対象へと変わってきました。実は2年前には、佐々木投手が既にマリナーズで活躍していたのですが、まったくの認識不足でした。
イチローの活躍に伴ってシアトルも一緒に紹介され、あのスターバックスコーヒーの発祥の地で一号店があること、しかもそのお店はエスプレッソの美味しさをアメリカに広めたいとの思いで創業された、というエピソードを知るに至り、勝手なものでまったく別の印象がシアトルに対して膨らみ始めてしまいました。
今は近くにもスタバがあり、いつも賑わっていますが、やはりシアトルでもう一度ゆっくり味わって確かめてみたいと思うのです。そういうことにはひどく単純な私は、コロッと気分を変えて、おそらく美味しく飲んでしまうのだろうと確信しています。
ところで、バンクーバーで地元の方が勧めてくれた「日光」という寿司屋のことも触れておきます。握ってくれた九州の福岡出身という店長が、「せっかく日本から来たのだから、冷凍ものでどこでも食べられるネタではなく、この地元近海の旬の食材を是非召し上がって」と勧められるままに、生牡蠣、サーモン、ビンチョウマグロ、そして子持ち昆布などを、カリフォルニア米で仕込んだという純米吟醸酒を片手にこころゆくまで堪能したのです。
そのあまりの美味しさに私たち4人はほんとうにびっくりし、そしていたく感動してしまいました。誰が言い出すでもなく皆意見を一致させ、帰国前夜にもう一度そのお店へ足を運んで、再び食欲のおもむくままに味わうこととなったほどです。
さて、皮肉なもので、このカナダ旅行の手配を引き受けてくれた友人によれば、2年前とはうって変わって、バンクーバーへの直行便よりもシアトル行きの方が現在はずっと人気が高くなってしまっているそうです。イチロー人気の高さゆえの仕業でしょう。
そして、私たち仲間4人が顔を合わせる度に、必ず異口同音に出るのが「あの時のお寿司はほんとうに美味しかった。もう一度食べたい」というセリフなのです。あれ以来、あんなに見事にたっぷり厚くて歯ざわりの心地よい子持ち昆布には、残念ながらお目にかかれていません。
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