過去の日々所感 No.021〜025
No.021 2003.08.25 <クマさんに出会った♪ その1>
 少し前、新宿のデパートで。

 ぶらぶらと売り場を眺めていて、散歩の時に重宝しそうな帽子を見つけました。丁寧に応対してくれた店員さんは、色白でツヤツヤした頬が印象的な若い女性。胸の名札には「熊谷」という名前。

 「お生まれは北海道?」支払いを済ませながら尋ねてみました。

 白クマを連想したわけでは決してありません。実は、出身地を言い当てるのを密かな得意技と自負している私。けれど、彼女は穏やかな表情で首を振り、埼玉出身であることを教えてくれました。

 さて、気に入った帽子を見つけたことに気をよくしながら、隣のアウトドアブランドへ。ここで応対してくれたのは、細身で華奢な青年。胸の名札を見ると「熊井」さん。

 「“熊”という苗字の店員さん、今日で2人目。でもあなたは優しそうなクマさんだね」と思わず軽口がついて出た私。聞けばこの青年、見た目の印象とは裏腹に、長くボーイスカウトに所属していて今でも活動しているとのこと。生粋のアウトドア派の人でした。

 2度あることは3度あるの例えで「次にクマさんに遭遇したら襲われちゃうかな」と熊井青年に更に話しかける私。さすがに彼もちょっと困った笑顔を見せ、選んだウィンドブレーカを手際よく包んで渡してくれました。

 買い物を済ませ、タクシーで帰途へ。すると乗り込むやいなや「東京の道はまだ不案内なのでよろしくお願いします」と挨拶されました。30代とおぼしき運転手さんです。ここのところ、タクシーに乗れば道に不馴れな新米運転手さんだった、ということはちっとも珍しくありません。

 ふと、前の運転者証に目を向けてみれば、少し驚きの偶然が。そこに記されていた名は「大熊」さんだったのです。

 続きは次回へ。

No.022 2003.09.10  <クマさんに出会った♪ その2>
 前回に続いて。

 熊谷さん、熊井さんという名の二人の店員さんに続けて出会った買い物帰り。乗り込んだタクシーの運転手さんが、なんと大熊さん。まさに3度目の正直、3人目のクマさんとの遭遇です。

 「東京生まれじゃないので、まだ道が覚えられないんです」と大熊運転手。走り出してほどなく「よかったらどうぞ」と、色とりどりのキャンディが詰まった箱を差し出してくれました。

 「うちのカミさんがね、あなたはお客さまに迷惑をかけてるからって言って。毎日、家を出る時に箱一杯に詰めて持たせてくれるんですよ」「実は、その前は1年も仕事をしない生活をしてたもんですから、カミさんにはずいぶん心配かけちゃってるんですよねー」と話しはつづきます。

 タクシー運転手歴はわずか一ヶ月とのこと。そう聞かされればなおのこと、期待と心配とをミックスさせながらキャンディを用意するミセス大熊の胸中へ、勝手に思いが向いてしまいます。

 「すてきな奥さんだね。せっかくだから、遠慮なくいただこう」そう言いながら私が選んだのは、昔ながらの黄色いセロハンに包まれたミルク味の飴。口にほおりこめば、懐かしい甘さがじんわり広がります。

 「運転に気をつけて。今日もいい仕事ができるといいね」と言葉をかけて車を降りました。

 この日、三度目のクマさんは、優しさの詰まったキャンディを抱えながら私を迎えてくれました。景気を映すと言われるタクシー業界。大熊さんが東京の道に慣れる頃、街の風もきっと、ゆるやかに変わっていることでしょう。

No.023 2003.10.08  <ナポリの旅 その1>
 南イタリアの港町ナポリへ出かけてきました。冷夏で肩すかしをくわされたような日本とは裏腹に、記録的な猛暑に見舞われていた欧州。その真夏には休暇がとれず、かなり遅めの夏休みの旅となりました。おかげで伝え聞いていた激しい暑さがすでに終息していたのは、私にとって幸いでした。

 ナポリで迎えた初めての朝。ホテル最上階のレストランから、朝食をとりながら街並を一望できました。青いナポリ湾をバックにしたロケーションが、朝特有のキラキラした陽光に包まれて出迎えてくれたのですから、それはもう最良のもてなしです。

 午後、ケーブルカーでヴォメロの丘と呼ばれる高台へ。賑やかなナポリを眼下に、夕刻からゆっくり暮れていく時間を楽しみました。乾いた風を受けながら見つめた夜景は、朝の表情とはガラリ違い、それはそれはムード満点。オレンジ色に煌めく火星もひときわ大きく映り、いつまで眺めていたって少しも飽きることはありません。

 そして、ぜひ訪れたいと思っていたのがポンペイの遺跡。ヴェスビオ火山の噴火によって一瞬にして灰の下に埋もれてしまったという古代都市。決して抗うことのできない自然の仕業によって時間を止められたまま、長い年月を超えて再び姿を現した街です。

 そこには、当時の活気にあふれた人々の往来を導いていたであろう石畳が続いていました。イタリアの強い日差しを肌で感じながら、カツカツとその石畳を踏みしめれば、たちまち気分は二千年前にタイムスリップ。“自分は今、古代の精霊たちと一緒に歩いている”そんな何とも不思議な非日常感覚に包まれたのでした。

No.024 2003.10.20  <ナポリの旅 その2>
 もう一つ、肌で感じて心に残ったのは、地元の人達が発していたある種の濃さと熱さ。

 たとえば、逗留したホテルのフロントの男性。 イカツくて無愛想な、いかにもナポリ親父といった存在感たっぷりの風貌。それでも顔を合わせ、簡単な挨拶を交わす度に、無骨な表情の内にある人情深くて柔和な人柄が、ゆっくり、しかし確実にこちらへ伝わってくるのでした。

 たとえば、元気いっぱいの子供たち。 表情がじつに豊かで楽しむことが上手。まるで跳ねるように歩き、弾けるように笑っています。街のごく普通の本屋を覗けば子供のための絵本があふれていました。

 たとえば、アマルフィ海岸でボールを蹴っていた少年たち。 こちらが日本人だと気づいたのでしょう。「シュンスケッ!ナカタッ!ヤナギサワッ!」と屈託のない声を上げ、陽気で人なつっこい天性の社交性を発揮していました。

 たとえば、スペイン地区の小路で腰掛けていた老婦人。 その風情は景色にすっかり溶け込み、きっと日がな一日こうして座り続けているに違いないと確信できます。ちょっと道を尋ねると、俄然立ち上がりました。不自由な足を押して、道案内をしてくれようとしたのです。こちらの方が大いに慌て、恐縮してしまうのでした。

 みんな、人間臭くて生きることに率直。「遠慮したり、足踏みしてるなんてもったいない!限られた大事な自分の人生だもの。しっかり楽しんで存分に味わおうよ」、そう教えてくれているかのようでした。

 そういえば、人だけではありません。野菜や果物も味や香りが濃く、ドーンとした存在感。五感を刺激されながら堪能しました。

 振り返れば、ほんとうによく歩きよく食べた旅。そうして、胃疲れのフゥ〜と、パンパンに膨れた足のむくみという二つのお土産が、我が身に残ったのでした。

No.025 2003.12.10  <ケーキこわい>
 ケーキも大福も好物という大の甘党の私の、もうン十年も前の愚かな失敗談を一つ。

 ある古武道の稽古に通っていた、まだまだ若輩の頃の話です。元来、いくら食べても太れない体質の私。道場に集う先輩たちの鍛えられた肉体を前に、自分ももう少し体重をふやせたなら、と考えていました。

 すると、ある大先輩が自信満々にこんなアドバイスをくれたのです。
「太るのなんて簡単だよ。夕食の後に毎日ケーキを2個食べれば、絶対に体重は増えるよ」

 そのあまりに単純明快すぎる論拠に、つい頷いてしまった単細胞な私。それはいいことを聞いたとばかり、早速その日から、晩ご飯をすませてさらにケーキを2個、という食習慣がはじまりました。

 最初は、楽勝ムードのスタート。何といってもケーキは好物ですし、近所にホームメイドの美味しいケーキ屋さんもありました。

 ・・・しかし。

 1週間、2週間と過ぎても、なぜか体重はいっこうに増える気配を見せてくれません。体重計に乗っては首をひねる日々。連日の食後のケーキにもさすがに飽きがきていました。が、そこは若さゆえ、意地っ張りの虫が顔をのぞかせていたのでしょう。目指す体重増加を達成するまでは続けるぞ、と妙にがんばってしまったのです。

 そして、2ヶ月後。

 変調は突然、やってきました。どうしようもなく胃袋がムカムカして、食欲がまったく湧きません。そう、自分の身体に合わない無理な食べ方を強要して、胃に負担をかけてしまっていたのです。

 げっそりとして体重計に乗ってみました。「あ〜ァ〜」2ヶ月前より明らかに数キロも、貴重な体重が減ってしまっているではありませんか。皮肉な結末でした。

 それからしばらく、我が甘党人生に‘ケーキなんて見るのもイヤだ’という空白の期間があったのは言うまでもありません・・・反省。

No.021〜No.025・完
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